【タクシードライバーの憂鬱】後退りする女

ある寒い日の15時頃でした。
御婦人をご自宅から動物病院までお送りしました。目的地は住宅街の中にあり行ったことがない場所。ナビを頼りに行ったのですが、ワンブロック間違えて曲がり、ほんの少しだけ遠回りになりました。

お会計となったところで揉め始めます。
客「何で今日だけ1200円なんですか?いつもは1000円とか1100円なのに」
ド「申し訳ありません。少しだけ遠回りになってしまったので」
客「おかしいじゃないですか。何とかしてくださいよ。私は週2回、ここにタクシーで通ってるんです。こんなの初めてです」
そう言って財布の中を漁りだしたお客様は、タクシーのレシート10数枚を取り出し見せ始めます。(怖っ)
ふと外を見ると、タクシーに乗りたそうな女の子がこちらをずっと注視してます。本来はしてはいけないのですが、お客様に狂気を感じ、これ以上関わるのは危険と判断し、自腹で100円負担して1100円で降りていただきました。たかが100円でそんなに拘る人がタクシー使うなよ(笑)

先客が降りるとすぐに「いいですか〜?」と先程の女の子。もちろんウェルカムなので笑顔でドアを開けます。若くて背が高くて長めの茶髪で、まるで『めるる』のように可愛らしい女の子でした(マスク越しだけど)。

乗り込む前に後部座席を一瞥した『めるる』。急に目を見開いて固まってしまいました。私の「どうぞ」という掛け声は耳に届いていない模様です。そのうち、頭を左右に少し振りながら、後退していってしまいました。

後部座席になにか先客の忘れ物でもあるのかと思い確認するも、白いシーツの掛かった座面が広がるばかり。私には何も見えません。もしかして『めるる』は視える人なのかもしれません。「お乗りになりますか?」という問い掛けには大きく頭を振って否の意思表示をし、くるりと踵を返して立ち去ってしまいました。

おいおい、後ろの席に、私の見えないアヤカシでもいるの?これから深夜まで一人で運転しなくちゃいけないのよ。なんなの?

それ以降何も起こってはいないのですが、印象的な出来事でした。

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